ジンのボタニカル図鑑

ボタニカルとは、ジンの香りと味を形づくる植物原料のことです。ジンはジュニパーベリー(セイヨウネズの果実)を香味の主体とする蒸溜酒で、EUやアメリカの酒類規則でも、ジュニパー由来の香味が主体であることが名乗りの条件とされています。そのジュニパーに加えて、種子・果皮・花・葉・根・樹皮といった植物素材を蒸溜の工程で用い、その香味成分をスピリッツに移します。この蒸溜に用いる植物原料の総称がボタニカルです。

漬け込みや浸漬ののちに蒸溜するか、蒸気を通して香りを抽出するかなど手法には幅がありますが、「ジュニパーを軸とし、植物由来の香味を蒸溜によって与える」という点は、ロンドン・ドライ・ジンのような伝統的スタイルでも、コンテンポラリー・ジンのような現代的スタイルでも変わりません。スタイルの違いは、どのボタニカルをどれだけ前に出すかの設計の違いとして表れます。

このページのデータについて

本サイトが収録するジン蒸溜所は638件で、そのうち637件にボタニカルの記録があります(記録がないのは長浜蒸溜所の1件のみ)。

ただし、この欄に入っているのはその蒸溜所を特徴づける代表的なボタニカルであって、レシピの全量ではありません。それは数字にはっきり出ています。637件のうち「ジュニパー」の語を含む記録は592件で、含まない記録が45件あります。その45件には、ザ・ボタニスト、カーン、エディンバラ・ジン、ケープバイロンといった、いずれも紛れもなくジンを造る蒸溜所が並びます。ジンである以上ジュニパーは使われているはずで、単に「その蒸溜所らしさを語るうえで挙がらなかった」だけです。

したがって以下の記述は、「何件の蒸溜所がその素材を使っているか」ではなく、「何件の蒸溜所が、自らを説明するときにその素材を挙げたか」を表しています。本ページでは、この違いが結論を左右しない範囲でのみ数字を出し、素材ごとの総件数は掲載しません。表記ゆれをどこまで同じ素材として束ねるか(「ジュニパーベリー」と「モンゴル産ジュニパーベリー」を同じ一つと数えるか、「山椒」と「四川山椒」を同じ一つと数えるか)という判断次第で、総件数は容易に一割以上動くためです。

よく挙げられるボタニカル

記録に登場する回数が多い順に並べると、上位は次の顔ぶれになります。

1. ジュニパー2. コリアンダー3. アンジェリカ4. レモン/カルダモン5. オレンジ6. オリス7. リコリス8. ラベンダー/カシア/シナモン

この並びは、古典的なジンのレシピでよく知られる構成と重なります。実際、タンカレーの記録は「ジュニパーベリー・コリアンダー・アンジェリカルート・リコリス」の4種のみで、いずれも上位に入る素材です。シップスミスは「ジュニパー・コリアンダー・アンジェリカ・リコリス・オリス・カシア・オレンジ・レモン」の8種で、こちらも全てが上位の素材です。

一方、ボンベイサファイアは「ジュニパー・コリアンダー・アンジェリカ・カシアバーク・アーモンド・グレインオブパラダイス・レモン・リコリス・グレープフルーツ」の9種、ビーフィーターは「ジュニパーベリー・アンジェリカ・コリアンダー・レモンピール・オレンジピール・アルモンド」の6種と記録されており、アーモンドやグレインオブパラダイスのように上位常連ではない素材も骨格に組み込まれています。

なお柑橘は、記録上「レモンピール」「オレンジピール」のように果皮(ピール)の形で書かれることが多く、637件中216件がピールという語を含んでいます。

カテゴリ別に見る

記録に現れるボタニカルは、おおむね次のように分けられます。

  • ジュニパー — ジンの定義そのものを担う核。
  • スパイス類 — コリアンダー、カルダモン、シナモン、ジンジャー(生姜)、グレインオブパラダイス、ナツメグ、キュベブ、ブラックペッパー、クローブ、スターアニス、フェンネルなど。
  • 柑橘類 — レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、柚子など。果皮の形で使われる記録が多く見られます。
  • 花・ハーブ類 — ラベンダー、エルダーフラワー、ローズマリー、カモミール、レモングラス、ミント、セージ、ローズ、タイム、バジル、ハイビスカスなど。
  • 根・樹皮類 — アンジェリカ、オリス、リコリス(甘草)、カシアなど。上位常連で、土台を支える役割を担います。
  • 土地固有素材 — 特定の国に集中して現れる素材。下記で扱います。

土地の個性が出るボタニカル

登場回数そのものは多くないものの、記録上ほぼ一国に限られるボタニカルがあります。ここにクラフトジンの地域性がはっきり出ます。以下の件数は、ボタニカル欄にその表記を含む蒸溜所の件数です。

ボタニカル記録のある蒸溜所内訳
レモンマートル23オーストラリア23
ブチュ11南アフリカ10・ドイツ1
ルイボス10南アフリカ10
ワトルシード10オーストラリア10
フィンボス8南アフリカ8
ハニーブッシュ8南アフリカ8
フィンガーライム7オーストラリア7
アニスマートル4オーストラリア4

オーストラリアの在来植物は、記録上ほぼ同国に限られます。アーチーローズディスティリングは「ジュニパー・コリアンダー・レモンマートル・ブラッドライム・ドリゴペッパーリーフ・リバーミント」、ケープバイロンは「レモンマートル・ネイティブジンジャー・アニスシードマートル・バンクシア・マカデミア・フィンガーライム」、アップルウッドは「ジュニパー・デザートライム・ワトルシード・ペパーミントガムリーフ・フィンガーライム・タスマニアンペッパーベリー」、フォーピラーズは「ジュニパー・シトラス・アニスマートル・ターマリック・オーストラリア産ペッパーベリー」と記録されています。産地でまとめて見るならオーストラリアのジンからどうぞ。

南アフリカでは、フィンボス(同国南西部に広がる固有の植生)由来の素材が目立ちます。インヴェロッシュは「フィンボス各種・ジュニパー」とだけ記録されています。ルイボスは記録のある10件すべてが南アフリカ、ブチュも11件中10件が同国です。南アフリカのジンで一覧できます。

日本の素材では、柚子が最も広く記録されています。「柚子」の表記を含むのは20件で、うち18件が日本、残る2件はイギリスと韓国です(ほかにひらがな「ゆず」表記が日本・インドで各1件)。桜(桜花・桜葉)4件、玉露3件はいずれも日本の記録に限られます。京都(季の美)は「ジュニパー・玉露・笹・檜・山椒・柚子」、ROKU(サントリー)は「桜花・桜葉・煎茶・玉露・山椒・柚子・ジュニパー」、桜尾は「ジュニパーベリー・コリアンダー・柚子・レモン・夏みかん・橙・ヒノキ樹皮・緑茶・赤紫蘇・生姜」と記録されています。この系統はジャパニーズ・ジンというスタイルとしても括られ、一覧は日本のジンから辿れます。

一方で、「和の素材」と受け取られがちでも実際には日本に限られないものもあります。山椒は23件・9カ国に現れ、日本の12件のほかは中国4件、インド・イギリス・スウェーデン・タイ・韓国・アメリカ・シンガポールに各1件で、その多くは四川山椒として記録されています。緑茶も11件のうち日本は7件で、アイルランド・オーストラリア・中国にも記録があります。

ヨーロッパでも土地の植生を取り込む設計は見られ、たとえばモンキー47は「ジュニパー・クランベリー・シー・バックソーン」ほかを記録しています。

数え方について

本ページの件数は、リポジトリ内のジン蒸溜所データ(638件)の「主要ボタニカル」欄について、その表記を文字列として含む蒸溜所の件数を数えたものです。表記ゆれを束ねる正規化はおこなっていません。「柚子」と「ゆず」、「山椒」と「四川山椒」、「緑茶」と「グリーンティー」のように別表記が存在する場合は、本文中でその旨を明示しています。上位ボタニカルの順位については、表記ゆれを束ねる処理が必要になるため順序のみを示し、確定した件数は掲載していません。

関連ページ

よくある質問

ジンのボタニカルとは何ですか?
ジンの香りと味をつくる植物原料の総称です。ジュニパーベリーを主体とし、種子・果皮・花・葉・根・樹皮などを蒸溜の工程で用いて、その香味成分をスピリッツに移します。漬け込んでから蒸溜する方法や、蒸気を通して抽出する方法などがあります。
ジンに最もよく使われるボタニカルは何ですか?
記録に登場する回数が多い順に、ジュニパー、コリアンダー、アンジェリカ、レモンとカルダモン、オレンジ、オリス、リコリスと続きます。上位の顔ぶれは古典的なジンのレシピの骨格とほぼ一致します。ただしこの欄は各蒸溜所を特徴づける代表的なボタニカルであってレシピの全量ではなく、表記ゆれをどこまで同じ素材として束ねるかで件数が大きく動くため、素材ごとの総件数は掲載していません。
ジンのボタニカルは何種類くらいありますか?
637蒸溜所の記録を正規化して集計すると1,384種類の名称が現れますが、多くは1蒸溜所のみの固有素材です。2蒸溜所以上で使われるものは271種類、5蒸溜所以上は92種類、10蒸溜所以上は45種類でした。
日本のジンに特徴的なボタニカルはありますか?
柚子が最も広く記録されています。「柚子」の表記を含む20蒸溜所のうち18件が日本です。桜(桜花・桜葉)4件、玉露3件はいずれも日本の記録に限られます。一方、山椒は23件・9カ国、緑茶は11件のうち日本が7件で、和の素材と受け取られがちでも日本に限らないものもあります。京都(季の美)、ROKU(サントリー)、桜尾などが該当し、ジャパニーズ・ジンというスタイルとしても括られます。

ほかのガイド

ガイドをすべて見る →