ジンの歴史
ジンは、ジュニパーベリー(西洋ネズの実)で香りづけした蒸溜酒です。薬用酒として扱われた時代を経て都市の大衆酒となり、規制で一度は抑え込まれ、蒸溜技術の変化によって辛口の酒質が生まれ、カクテルの土台として世界へ広がりました。
このページでは、その流れを時間軸で通して読めるように整理します。あわせて、当サイトが収録するジン蒸溜所638件(81カ国)のうち、データに創業年が記録されている605件を年代別に集計し、いまジンを造っている蒸溜所がどの時代に生まれたのかを示します。
ジュネヴァの誕生(オランダ・ベルギー)
ジンの祖先にあたるのは、低地地方(現在のオランダ・ベルギー)で造られたジュネヴァ(イェネーフェル)です。穀物を原料とするモルトワインを基酒に、ジュニパーで香りづけしたもので、薬種商の扱う薬用酒としても流通しました。名称はジュニパーを指すオランダ語 jeneverbes、フランス語 genièvre に由来します。
17世紀以降、イングランドでもジュネヴァ型の蒸溜酒が知られるようになります。1688年の名誉革命を経て、オランダ総督ウィレムが翌1689年にイングランド王ウィリアム3世として即位したのちは、フランス産ブランデーの輸入規制と国内の穀物蒸溜の奨励が重なり、ロンドンでの蒸溜が拡大しました。
ジュネヴァは現在も独立したスタイルとして残っています(ジュネヴァ)。当サイトの収録蒸溜所のうち、データ上の創業年が最も古いボルス(1575年・オランダ)も、この系譜にあたります。
18世紀ロンドンのジン・クレイズと一連の規制
18世紀前半のロンドンでは安価な蒸溜酒が大量に出回り、のちにジン・クレイズ(Gin Craze)と呼ばれる社会問題となりました。議会は1729年・1736年・1743年・1751年と相次いでジン法(Gin Act)を制定し、免許料・税・小売の制限を繰り返し調整します。1751年の法以降、過剰な消費は沈静化へ向かいました。同じ1751年にウィリアム・ホガースが発表した版画《ジン横丁》と《ビール街》は、当時の社会の視線を伝える資料として今も参照されます。
連続式蒸溜機の登場とロンドン・ドライの成立
19世紀前半に連続式蒸溜機が実用化されます。イーニアス・カフェが1830年に特許を取得した装置は広く普及し、雑味の少ない高純度のスピリッツを安定して得られるようになりました。甘味で粗さを覆う必要がなくなった結果、糖を加えない辛口のジン——ロンドン・ドライ——が成立します。
現在の呼称としてのロンドン・ドライは、EUの蒸溜酒規則が定めるカテゴリー「ロンドン・ジン」に対応する製法上の区分です。香味の付与を蒸溜の段階に限ること、着色をしないこと、甘味の添加を1リットルあたり糖分0.1グラム以下に抑えることなどが条件で、「ロンドン」は産地を意味しません(ロンドン・ドライ・ジン)。
ロンドン・ドライの担い手として知られる作り手も収録しています。データ上の創業年は、ゴードン1769年、プリマス1793年、タンカレー1830年、ブードルズ1845年、ビーフィーター1863年、ヘイマンズ1863年です。
オールド・トムとカクテル文化の広がり
連続式蒸溜が普及する以前のジンには、粗さを和らげるために甘味を加えたものがありました。この系統がオールド・トムです(オールド・トム・ジン)。19世紀のカクテルレシピにはオールド・トムを指定したものがあり、ドライジンに置き換えると味の設計が変わる点は、古典レシピを再現する際の論点として残っています。
19世紀後半にはバーテンダー向けのレシピ集が出版され、ジンはカクテルの基酒として定着しました。キニーネを含むトニックウォーターと合わせる飲み方は、のちのジントニックにつながります。このほか、高いアルコール度数で瓶詰めするネイビーストレングス、スロー(スピノサスモモ)の実を漬け込むスロージン、樽で寝かせる樽熟成ジンが、それぞれ独立したスタイルとして定着しています。
20世紀の停滞
米国の禁酒法期(1920〜1933年)には密造の粗悪な蒸溜酒が出回る一方、米国のバーテンダーが欧州やキューバへ移り、カクテル文化は米国外へ広がりました。第二次世界大戦後は無色無臭を売りにしたウォッカが台頭します。
当サイトの収録蒸溜所のうち、1950〜1979年に創業したものは605件中5件です。ただしこの数字は現在も収録対象となっている蒸溜所の創業年であり、当時操業していた蒸溜所の総数を示すものではありません。
創業年で見る収録蒸溜所
`data/ジン蒸溜所_初期データ.tsv` の `founded_year` 列が4桁の数値である605行を、年代で区切って集計したものです。
| 創業年 | 件数 |
|---|---|
| 1799年以前 | 11 |
| 1800〜1899年 | 31 |
| 1900〜1949年 | 22 |
| 1950〜1979年 | 5 |
| 1980〜1999年 | 18 |
| 2000〜2009年 | 56 |
| 2010〜2019年 | 406 |
| 2020年以降 | 56 |
| 合計 | 605 |
創業年の古い順に並べた上位10件は次の通りです。
| 創業年 | 蒸溜所 | 国 |
|---|---|---|
| 1575年 | ボルス | オランダ |
| 1585年 | シュリッツァー | ドイツ |
| 1641年 | ブレンナーライグーグルホーフ | オーストリア |
| 1642年 | ブルワリー&ディスティラリーウィルデレン | ベルギー |
| 1658年 | オンデルデボームピェス | オランダ |
| 1691年 | ノレット | オランダ |
| 1761年 | グリノールズ | イギリス |
| 1769年 | ゴードン | イギリス |
| 1782年 | A.ファンウィース | オランダ |
| 1793年 | プリマス | イギリス |
なお `founded_year` は蒸溜所・企業としての創業年であり、ジンの製造を開始した年ではありません。木内酒造(1823年)、京屋酒造(1834年)、瑞穂酒造(1848年)、千代むすび酒造(1865年)のように、酒造業としての創業が19世紀で、ジンの生産は近年という例が含まれます。
2010年代の小規模蒸溜所の急増
創業年が記録されている605件のうち、2010年以降の創業は462件で、605件の約76%にあたります。単年で見ると2016年が57件、2015年が54件、2013年が50件と、2010年代半ばに山があります。
収録638件の国別内訳は、イギリス120件、アメリカ78件、オーストラリア40件、日本36件、南アフリカ28件の順で、全体は81カ国に及びます。国別の一覧は産地から探すから辿れます。
1900年以前に創業した蒸溜所43件
`founded_year` が1900以下の収録蒸溜所は43件です。国別の内訳は、オランダ7件、イギリス7件、スペイン6件、ドイツ5件、日本4件、フランス4件、イタリア3件、ベルギー2件、スイス2件、オーストリア・フィンランド・エストニア各1件です。
この43件のうち32件は1800〜1900年の創業です。オランダ・ベルギーに所在するものは、ボルス(1575年)、ノレット(1691年)、A.ファンウィース(1782年)、ルッテ(1872年)、フィリールス(1880年)、フーフハウト(1888年)などです。イギリスで最も創業年が古い収録蒸溜所はグリノールズ(1761年)です。各蒸溜所の詳細は蒸溜所一覧から確認できます。
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よくある質問
- ジンはいつ生まれたお酒ですか?
- 直接の祖先は、低地地方(現在のオランダ・ベルギー)で造られたジュネヴァです。穀物由来のモルトワインをジュニパーベリーで香りづけしたもので、当初は薬用酒として広まりました。1688年の名誉革命以降、イングランドで蒸溜が拡大し、現在のジンにつながります。
- ジン・クレイズとは何ですか?
- 18世紀前半のロンドンで安価な蒸溜酒が大量に出回り、社会問題となった状況を指します。議会は1729年・1736年・1743年・1751年にジン法を制定して免許料・税・小売を規制し、1751年の法以降は消費が沈静化へ向かいました。
- ロンドン・ドライ・ジンの「ロンドン」は産地のことですか?
- いいえ、製法を指す呼称です。蒸溜の段階でのみ香味を付与すること、着色をしないこと、甘味の添加を1リットルあたり砂糖換算0.1グラム以下に抑えることなどが条件で、条件を満たせばどの国で造られても名乗れます。
- 当サイトで最も創業が古いジン蒸溜所はどこですか?
- 収録638蒸溜所のうち創業年が判明している605件を昇順に並べると、最も古いのはオランダのボルス(1575年)です。次いでドイツのシュリッツァー(1585年)、オーストリアのブレンナーライグーグルホーフ(1641年)が続きます。なお創業年は企業としての創業であり、ジンの製造開始年ではありません。